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「わがまま」「怠け」「甘え」に見えるとき―PANSの変化を“行動だけ”で見ない

公開日 2026年9月2日著者 Ryoko Homma

急に親から離れられない、確認が増える、宿題が進まない、音や服を嫌がる、学校へ行けない。PANSでは、周囲から「わがまま」「怠け」「甘え」に見える行動の奥に、以前とは違う変化が隠れていることがあります。大切なのは、行動だけでなく「いつから、何が変わったか」を見ることです。

ある時を境に、子どもの様子が変わることがあります。

風邪や感染症が治ったころから。

体調を崩したあとから。

あるいは、はっきりしたきっかけは分からなくても、

「今まで平気だったのに」

と思うことが、短い期間にいくつも増えてくる。

たとえば、

「急に親から離れられなくなった」

「何度も同じことを確認するようになった」

「宿題にものすごく時間がかかるようになった」

「今まで着ていた服のタグを気にするようになった」

「教室の音を嫌がるようになった」

「学校へ行けなくなった」

そんな変化です。

でも、周りの大人が最初に目にするのは、

「不安が強くなった」「感覚が変わった」「考えることが以前より難しくなった」

といった、子どもの内側で起きている変化ではありません。

目に入るのは、

親から離れない。

何度も同じことを聞く。

宿題が進まない。

服を嫌がる。

学校へ行かない。

という「行動」です。

だから、

「急に甘えるようになった」

「こだわりが強くなった」

「やる気がなくなった」

「わがままになった」

そんなふうに受け取られてしまうことがあります。

でも、ここで一度考えてみたいことがあります。

その子は、もともとそういう子だったのでしょうか。

それとも、

ある時期を境に、今までできていたことができなくなったのでしょうか。

この違いは、とても大切です。

PANS(小児急性発症神経精神症候群)は、OCD(強迫症状)や著しい食事制限などを中心に、さまざまな神経精神症状が急に現れる状態です。

分離不安、感覚の変化、睡眠の変化、学校でのパフォーマンス低下などが、同じ時期に重なることがあります。

感染症などがその前後にみられることもありますが、すべての子で明確なきっかけが分かるわけではありません。

だから、一つの行動だけを見て、

「これはPANSだ」

と判断することはできません。

それでも、

以前とは明らかに違う変化が、短い期間にいくつも重なったとき、

「なぜこんな行動をするの?」

ではなく、

「この子の中で、何が変わったのだろう?」

という問いを一つ加えてみる。

同じ行動でも、その問いを持つだけで、見えてくるものが変わることがあります。

「急に親から離れない」

以前は一人で学校へ行けていた子が、急に、

「お母さんも一緒に来て」

と言うようになる。

家の中でも親のあとをついて歩く。

一人で寝られない。

少し姿が見えなくなるだけで、不安になる。

外から見ると、

「急に甘えん坊になった」

「もう大きいのに」

「親離れできていない」

ように見えるかもしれません。

でも、PANSでは、急に強い分離不安が現れることがあります。

このとき本人の中では、

離れたくないのではなく、離れることが怖くてできない。

そんな状態になっていることがあります。

見えているのは「親から離れない」という行動です。

その内側では、本人にも簡単には止められない強い不安が起きているのかもしれません。

「何度も同じことを確認する」

「本当に大丈夫?」

「絶対?」

「さっき触ってないよね?」

何度答えても、また同じことを聞く。

外から見ると、

「しつこい」

「こだわりが強い」

「融通がきかない」

ように見えることがあります。

すると大人は、

「さっき答えたでしょう」

「何回聞くの?」

「そんなに気にしなくても大丈夫」

と言いたくなるかもしれません。

でも、強い不安やOCDの症状があると、

確認しないと不安が下がらない

という状態になることがあります。

本人も、何度も確認したいわけではないかもしれません。

「もう気にしないようにしよう」と思っても、不安がまた戻ってきて、確認せずにはいられない。

外から見えるのは「何度も聞く」という行動。

でも、その内側では、本人自身が不安に追い立てられていることがあります。

「宿題が進まない」「返事が遅い」

机には座っている。

でも、なかなか始めない。

問題を読んでも止まっている。

呼びかけても返事が遅い。

外から見ると、

「やる気がない」

「聞いていない」

「ぼーっとしている」

「集中していない」

ように見えます。

でも、PANSでは、注意や記憶など、学習に必要な働きが以前とは違ってくることがあります。

さらに、

睡眠が乱れている。

疲れやすい。

不安で頭の中がいっぱいになっている。

そんな変化が重なることもあります。

つまり、

「やらない」のではなく、「以前と同じようには進められない」

ことがあるのです。

同じ一枚の宿題でも、本人にとって必要な集中力やエネルギーは、以前とは大きく変わっているかもしれません。

「服や音を強く嫌がる」

「この服、痛い!」

「うるさい!」

「もう無理!」

急にそんなことを言い始めたら、

「神経質になった」

「わがままを言っている」

「少しくらい我慢すればいいのに」

と見えることがあります。

でも、感覚が以前より強く感じられるようになると、周囲には普通に思える刺激が、本人にはとてもつらく感じられることがあります。

服のタグ。

靴下の縫い目。

教室で何人もの子が話す声。

椅子を引く音。

外から見れば「嫌がっている」だけに見えても、

本人にとっては、

我慢すれば済む程度の不快感ではなく、身体が避けたくなるほど強い刺激

なのかもしれません。

同じ音を聞いていても、同じ服を着ていても、本人が受け取っている感覚まで同じとは限りません。

「学校へ行けない」

朝になると動けない。

玄関まで行っても戻ってしまう。

「学校へ行きたくない」と泣く。

外から見ると、

「学校が嫌になった」

「行きたくないだけでは」

「一度行けば何とかなるのでは」

と思うこともあるでしょう。

でも、「学校へ行く」という一つの行動の裏側には、いくつもの困難が重なっていることがあります。

親から離れるのが怖い。

教室の音がつらい。

授業についていくのが以前より大変になった。

よく眠れず、朝から疲れている。

失敗することへの不安が強くなった。

一つひとつなら何とかできても、それらがいくつか重なると、学校へ向かうこと自体が大きな負荷になります。

外から見えるのは、

「学校へ行かない」

という一つの行動です。

でも、その一つの行動だけを見ても、本人の中で何が起きているのかまでは分かりません。

一つの症状より、「変化の時間軸」を見る

ここまで読んで、

「うちの子にも似たことがある」

と思った方もいるかもしれません。

ただし、今挙げた一つひとつの行動だけで、PANSと判断することはできません。

不安症やOCD、発達特性、睡眠不足、身体の病気、学校や家庭の環境変化などでも、似た変化は起こります。

だから、一つの症状だけを見るのではなく、

いつから変わったのか。

何が以前と違うのか。

同じ時期に、ほかにも変化が起きていないか。

という時間軸で見てみることが大切です。

たとえば、

親から離れられなくなっただけではなく、同じころから眠れなくなった。

宿題が進まなくなっただけではなく、音も強く嫌がるようになった。

学校へ行けなくなっただけではなく、確認行動も増えてきた。

そうして見ていくと、一つひとつ別々に見えていた行動が、

「同じ時期に始まった変化のまとまり」

として見えてくることがあります。

PANSでいう「突然」は、必ずしも「朝起きたら別人になっていた」という形だけではありません。

変化の速さや重なり方については、

「PANSの『突然』は、一晩で変わることだけではありません」

でも詳しく紹介しています。

「行動をやめさせる」前に、見方を変えてみる

「甘えないで」

「ちゃんとやって」

「気にしすぎだよ」

「早くして」

「わがまま言わないの」

どれも、子どもを困らせようとして出てくる言葉ではありません。

早く元に戻ってほしい。

できるようになってほしい。

大丈夫だと分かってほしい。

そんな気持ちから出てくることも多いでしょう。

それでも、子どもが以前とは明らかに違っていると感じたときには、言葉をかける前に、一度だけ問いを変えてみてください。

「以前はできていたのに、なぜ今はできないのだろう?」

「やらない」と「できない」は、外から見るとよく似ています。

「嫌がっている」と「耐えられない」も、外からは区別しにくいものです。

「甘えている」と「怖くて離れられない」も、見えている姿だけなら同じかもしれません。

だからこそ、行動そのものを止める前に、

その行動が必要になった理由はないだろうか。

と考えてみる。

その小さな問いが、子どもの急な変化に気づく入口になることがあります。

PANSについて詳しく知っている必要はありません。

最初に必要なのは、病名を当てることではなく、

「以前と何か違う」

と気づくことです。

そして、

目の前の行動が、その子の意思や性格だけで起きているとは限らない

という視点を持つこと。

急激で大きな変化がみられる場合には、PANSに限らず、身体的・精神的な原因を含めて医療機関へ相談することも大切です。

「困った行動をしている子」に見えたとき。

もしかすると、その向こう側にいるのは、

何かが起きて、本人自身が困っている子

なのかもしれません。

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