PANSの「突然」は、一晩で変わることだけではありません
PANSの「突然の発症」を、どのように振り返ればよいのでしょうか。以前からの特徴と急激な悪化を区別し、感染や体調変化の前後で何が変わったのかを時系列で整理する方法を解説します。

医療機関で、
「症状はいつから始まりましたか?」
と聞かれて、答えに迷うことがあります。
「前から少し不安はありました」
「感染後から、何となく様子が違いました」
「最初は疲れているだけだと思っていました」
「後から振り返ると、いくつもの変化が同じ時期に始まっていました」
このような場合、何月何日から始まったのかを、一日単位で決めるのは簡単ではありません。
PANSでは、強迫症状または食事の著しい制限が、急激かつ劇的に現れることが診断上の重要な特徴です。さらに、不安、感情、感覚、運動、睡眠、排尿、学習など、複数の領域の症状を伴うことがあります。
ただし、ここでいう「急激な発症」は、家族が一晩ですべての変化に気づかなければならない、という意味ではありません。
大切なのは、発症日を無理に一点に決めることではなく、以前の状態から何が、どのくらいの速さで変わったのかを振り返ることです。
「突然」は、長い時間をかけた変化という意味ではありません
PANSの「突然」を広く捉えすぎないことも重要です。
何か月、何年もかけて、不安、こだわり、学習上の問題などが少しずつ強くなった経過を、そのままPANSの急性発症と考えることはできません。
一方で、次のような経過はあります。
最初は少し不安が強くなったように見え、その後、一人で眠れない、学校へ行けない、何度も手を洗う、食べられるものが急に減る、音を強く怖がるなど、複数の変化が同じ時期に重なっていたことに気づく場合です。
この場合、中心となる症状は急激に現れていても、家族が周辺症状を含む全体像に気づき、経過として整理するまでには時間がかかることがあります。
つまり、分けて考えたいのは、次の二つです。
- 症状が実際に急激に現れた時期
- 家族が複数の変化を一つの経過として認識した時期
「数日から数週間」という期間は、PANSの診断基準を置き換えるものではありません。家族が感染や体調変化の前後を振り返り、複数の症状のまとまりを整理する際の時間軸として考えます。
なぜ、感染した瞬間にすべての症状がそろうとは限らないのでしょうか
感染が関係する場合でも、感染した瞬間に、脳に関係する免疫反応がすべて完成するわけではありません。
まず、体が病原体を認識して炎症反応を起こします。その後、病原体に対応する抗体や免疫細胞の反応が作られていきます。
PANDASでは、溶連菌に対して作られた抗体の一部が、構造の似た神経系の分子にも反応する「分子擬態」が関係する可能性が研究されています。
例えるなら、免疫は病原体の「顔」を覚えて見つけ出します。ところが、自分の神経組織の一部に似た特徴があると、免疫が見間違えて反応してしまうことがある、という考え方です。
また、炎症や免疫反応が血液脳関門や脳内の神経回路へ影響する可能性についても研究されています。
ただし、分子擬態や特定の抗神経抗体は、主に溶連菌感染と関連するPANDASで研究されている病態仮説です。すべてのPANSが同じ仕組みで起こることが証明されているわけではありません。
PANSは、症状の現れ方によって定義される症候群です。想定される誘因や病態は一様ではなく、明確な感染が確認されない場合もあります。
感染が「最初のきっかけ」になったとしても、体内の免疫反応はいくつかの段階を踏んで進みます。一方、PANSの診断では、中心となる症状が急激に表面化することが重要です。
この二つは分けて考える必要があります。
以前から不安や発達特性があった場合
もともと不安が強い、こだわりがある、感覚に敏感である、発達特性があるという子どももいます。
その場合、以前からあった特徴そのものをPANSと考えるのではなく、それまでと比べて何が変わったかを確認します。
例えば、以前から音に敏感でも、普段は教室で過ごせていた子どもが、短期間に音を強く怖がり、教室へ入れなくなった場合があります。
このとき重要なのは、「以前から音に敏感だった」という特徴だけではありません。
- 程度が急激に強くなった
- 日常生活を妨げるようになった
- それまでなかった症状が加わった
- 複数の問題が同じ時期に重なった
という変化です。
振り返るときは、次のように分けると整理しやすくなります。
- 以前から、ほぼ同じ程度で続いていた特徴
- 以前からあったが、短期間に大きく悪化した症状
- その時期に新しく現れた症状
- 数か月から数年をかけて徐々に変化した症状
発達特性があることと、PANSであることは同じではありません。一方で、発達特性がある子どもにも、別に急激な症状変化が起こる可能性はあります。
以前の状態と今回の変化を分けて、医療機関へ伝えることが大切です。
一つの症状ではなく、変化の「まとまり」を見る
PANSを疑うきっかけは、不安だけ、食事だけ、学習だけとは限りません。
例えば、ある時期を境に、次のような変化が重なることがあります。
- 一人でいられなくなった
- 手洗いや確認を何度も繰り返すようになった
- 食べられる食品が急に減った
- 音、光、におい、衣服を強く嫌がるようになった
- チックや不随意な動きが現れた
- 字が急に乱れた
- 計算や宿題が難しくなった
- 入眠や夜間覚醒が変化した
- 頻尿や夜尿が始まった
- 学校へ行けなくなった
すべての項目がそろう必要はありません。また、症状の数が多ければPANSと決まるわけでもありません。
確認したいのは、同じ時期に、子どもの生活のどの部分が、以前からどう変わったかです。
時系列は4つに分けて振り返る
すべてを完璧に記録しようとすると、かえって整理が難しくなります。
次の4つに分けて振り返ってみましょう。
1.変化が起きる前
以前の食事、睡眠、不安、感覚過敏、学習、登校状況などは、どのような状態だったでしょうか。
2.その前後にあった出来事
発熱、咽頭痛、咳、胃腸炎などの症状や、家族・学校での感染流行がなかったかを確認します。
薬の開始や変更、けが、強い身体的負担なども、医療機関へ伝える情報になります。
ただし、感染の後に症状が現れたことと、感染が症状の原因であることは同じではありません。時間的な関係と因果関係は分けて考えます。
3.急に現れた中心症状と、その時期に重なった変化
何が最初に変わったでしょうか。
強迫的な行動や食事の著しい制限に加えて、不安、分離不安、感覚、チック、睡眠、排尿、字、計算、読書、集中力、登校などの変化を振り返ります。
本人が、
「頭が働かない」
「理由は分からないけれど怖い」
「自分でも止められない」
などと話していなかったかも、大切な情報です。
4.その後の経過
症状が改善した時期、再び悪化した時期、別の感染や体調不良との関係、薬を使った前後の変化なども記録します。
記録が残っていなくても、手がかりはあります
詳しい日誌をつけていなくても、生活の中に時系列を思い出す手がかりがあります。
学校からの連絡、欠席や遅刻の記録、家族間のメッセージ、写真や動画、受診日、薬の処方日、学校行事や旅行の日付などです。
ノートや宿題が残っていれば、字の大きさや形、計算の間違い、書き終えるまでの時間なども、以前との違いを知る資料になります。
正確な日付が分からなくても、
「運動会の前の週」
「発熱の後」
「新学期が始まった頃」
という整理でも構いません。
医療機関には「変化の物語」を伝える
症状を長く列挙するだけでは、何が急に変わったのかが伝わりにくいことがあります。
次の順序で簡潔にまとめると、経過を共有しやすくなります。
- 以前はどうだったか
- 何が最初に変わったか
- その前後に感染や体調変化があったか
- 短期間にどのような症状が重なったか
- 生活上、何ができなくなったか
- 改善や再悪化があったか
例えば、次のように伝えます。
以前から音には少し敏感でしたが、○月の発熱後に急に一人で眠れなくなりました。その後、学校へ行けなくなり、同じ頃から何度も手を洗うようになって、食べられるものも減りました。
この文章では、以前からの特徴と、急に現れた変化、新しく加わった症状を分けています。
症状だけでPANSと診断することはできません
時系列を整理することは大切ですが、それだけでPANSと診断できるわけではありません。
似た症状は、感染症、神経疾患、自己免疫・炎症性疾患、内分泌・代謝の異常、薬剤の影響、強迫症、不安症、摂食障害、発達特性などでも起こることがあります。
PANSは、ほかの原因を除外しながら検討する必要がある症候群です。病歴、診察、必要な検査を含めた医学的評価が必要です。
また、感染との時間的な関係があっても、感染が原因であると直ちに断定することはできません。
すぐに医療機関へ相談した方がよい状態
次のような状態では、PANSかどうかを整理することよりも、安全の確保と速やかな医学的評価を優先してください。
- 水分をほとんど取れない、尿が極端に少ないなど、脱水が疑われる
- 食事がほとんど取れず、急速に衰弱している
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応がおかしい
- けいれんがある
- 急に歩けない、力が入らない、言葉が出にくいなどの新しい神経症状がある
- 強い混乱や興奮があり、安全を保てない
- 自分やほかの人を傷つける具体的な危険がある
緊急性に迷う場合は、地域の救急相談窓口や医療機関へ相談してください。
症状チェックは、診断ではなく整理のために
PANSの症状チェックは、自分で診断を決めるためのものではありません。
- 症状を領域別に整理する
- 以前との違いを確認する
- 医療機関へ伝える内容をまとめる
ための補助として活用してください。
PANSの「突然」は、一晩で完全に別人のようになる場合だけを指すものではありません。
しかし、長い時間をかけた緩やかな変化を、すべてPANSの急性発症と捉えるものでもありません。
正確な発症日を無理に一点に決めるよりも、
以前はどうだったのか。
何が急に変わったのか。
同じ時期に、どのような変化が重なったのか。
を時系列で振り返り、医療機関へ伝えることが大切です。
関連情報
本記事は、PANS/PANDASに関する一般的な情報を提供するものであり、個別の診断や治療を行うものではありません。症状がある場合は、ほかの医学的原因を含めて医療機関で評価を受けてください。感染との時間的な関連は、感染が症状の原因であることを直接証明するものではありません。
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